女性の大敵、冷えを改善する漢方薬のひとつ「温経湯(うんけいとう)」。温経湯は冷えをはじめ、生理不順や更年期障害など主に女性特有の病気を改善しますが、じつは妊活にも使われる漢方薬です。妊活の漢方といえば当帰芍薬散は聞くけど、温経湯はよく知らない方も多いのではないでしょうか?本記事では、元漢方薬剤師が温経湯の効果や向いている人や注意点を解説します。温経湯の妊活への効果や当帰芍薬散との違いも解説するので、妊活におすすめな漢方薬を知りたい方はぜひ参考にしてください!温経湯はどんな漢方薬?12種類の生薬のはたらき「温経湯ははじめて聞くけどどんな漢方薬?」と疑問に思う方も多いと思います。温経湯は歴史が古く、女性の病気に用いられたことが中国の古典に紹介されている実績ある漢方薬です。まず、温経湯がどんな漢方薬で、どんな生薬が含まれているかみていきましょう。血行をよくする温経湯は冷え性女性の強い味方!温経湯は体を温め、血行をよくして生理不順や生理痛など主に女性特有の病気を改善する漢方薬です。温経湯は「経絡」を「温める」という名前の由来があり、寒さにより「経絡」の流れ、いわゆる血行不良がおきているときに使われます。東洋医学で「経絡」とは血液やエネルギーなどの通り道を意味し、経絡の流れが悪くなると、血行不良による冷えなどさまざまな不調に繋がるとされています。さらに女性の場合、冷えが強いとホルモンバランスがくずれて生理痛や生理不順の原因になることも。男性よりも女性は熱を産生したり、血液を循環させる役割がある筋肉量が少ないため、冷え症になりやすいと考えられています。温経湯は血行不良でおこる生理痛などを和らげてくれる、冷え性女性の心強い味方です。12種類の生薬から構成温経湯は体を温めたり、血行をよくする生薬だけではなく、血や潤いをあたえる生薬なども含む漢方薬です。漢方の中でも温経湯は12種類と、比較的多種類の生薬から構成されています。※配合生薬は販売メーカーによって一部異なります【12種類の構成生薬と主なはたらき】配合生薬主なはたらき桂皮(ケイヒ)、呉茱萸(ゴシュユ) 、 生姜(ショウキョウ)新陳代謝を活発にして冷えを除く当帰( トウキ)、芍薬(シャクヤク) 、川芎(センキュウ)血を補う牡丹皮(ボタンピ) 血の巡りをよくする人参(ニンジン)、阿膠(アキョウ)潤いをあたえる、体力を補う半夏(ハンゲ)、麦門冬(バクモンドウ)気の上衝(怒りやストレスで気が上昇する状態)を治す甘草(カンゾウ)他の生薬同士のバランスを調和するなお、東洋医学の考えでは「血」は体に栄養や潤いを与えたり、精神を安定させるものです。「血」が足りなかったり、流れが悪いと生理不順や生理痛など女性特有の不調につながりやすくなります。温経湯は12種類の生薬の働きにより、体を温めたり、血の状態をよくしながら体全体の状態を整えます。温経湯はどんな効果がある?生理不順や更年期障害を改善温経湯は生理不順や生理痛以外にも、更年期障害や神経症や不眠、しもやけや湿疹などにも効果があります。ここでは、温経湯の効果を紹介します。生理不順や生理中の腹痛や不快感温経湯は生理トラブルでよくみられる、生理不順や生理中の腹痛や不快感を和らげてくれます。生理不順とは正常な生理周期よりも長かったり、短いなどの生理周期の日数に異常がある状態です。なお、正常な生理周期の日数は25〜38日で、変動は6日以内と定義されています。生理不順はストレスや急激なダイエットなどによるホルモンバランスの乱れでおこることが多いです。温経湯はラットのストレスによる生理周期の異常を回復したという動物実験のデータも報告されています。更年期障害更年期障害とは閉経前後の時期に女性ホルモンの急激な減少であらわれてくる、さまざまな心身の不調のことです。更年期の症状はさまざまで個人差がありますが、以下の症状が代表的です。ほてり、のぼせ、寝汗、動機、むくみ不眠、イライラ、頭痛、めまい肩こり、腰痛 更年期障害も女性ホルモンと関わりが深い病気になり、温経湯は生理トラブル以外にも更年期の多彩な心身の不調を和らげます。イライラなどの神経症や不眠温経湯は不眠やイライラなどの神経症にも適しています。漢方薬は西洋薬のように直接睡眠に誘導するものではありません。不安感や緊張など不眠の原因になるものをやわらげて、体全体のバランスを整えながら自然に眠れるようにさせてくれます。しもやけや湿疹温経湯は湿疹やしもやけなどの皮膚トラブルにも効果があります。しもやけは寒さの刺激で血行不良になることでおこるとされ、温経湯の冷え、血行不良による改善効果が期待されています。他にも「主婦湿疹」とよばれる、水仕事をよくする主婦や美容師さんに多い手荒れにも使われることがあります。温経湯が妊活に使われるのはなんで?温経湯は生理不順を改善する効果があることから、応用して不妊症にも使われます。生理不順は無排卵や卵の発育がゆっくりなときにおこることが多いです。排卵がスムーズにおこなわれていないと、妊娠しにくくなってしまいます。温経湯は動物実験で排卵誘発作用を示したことが報告されています。多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)にも使われます温経湯は不妊や生理不順の原因になるPCOSにも排卵誘発効果を期待して使われることがあります。PCOSは女性の5〜10%にみられる比較的珍しくない病気です。卵胞の成⻑が途中で止まり、たくさんの⼩さな卵胞が卵巣内にとどまることで生理不順や不妊原因になります。他にもニキビ、肥満などの症状があらわれることも。PCOSの人が温経湯を服用したところ、排卵が促進されたという報告もされています。温経湯が向いている3つの体質漢方薬は西洋薬と異なり、症状や病名だけで判断せずに個々の体質も考慮します。そのため、生理不順で不妊がみられる方でも、そもそも温経湯が合う体質なのかも考えることが大切です。ここでは温経湯に向いている3つの体質を紹介します。①やや疲れやすい(虚証)温経湯は少し疲れやすかったり、あまり体力がない方に向いています。東洋医学では体力や病気への抵抗力から診断する「虚・実(きょ・じつ)」の考え方があります。温経湯は体力や抵抗力が弱めな「虚」のタイプに向いている漢方薬です。②下半身が冷えやすい(寒証)温経湯は冷え症でも上半身より足や腰などの下半身がとくに冷えるタイプに適しています。下半身つまり子宮周りを温めてくれるため、生理痛や生理不順に効果が期待できます。③手足がほてり、唇がかわく(燥証)温経湯は体を潤してくれる生薬も含むため、乾燥体質の方に向いています。例えば、唇が乾燥しやすい、手のひらがほてりやすい、といった症状がみられる方に効果が出やすいとされています。温経湯と当帰芍薬散の違いは?妊活にはどっちがよいの?妊活の漢方といえば当帰芍薬散のイメージがあり、どっちがよいの?と悩む方も多いはず。当帰芍薬散と温経湯はどちらも冷え症で疲れやすい体質の方向けで、生理痛や生理不順に効果がある点などが似ています。ただ、配合生薬にちがいはあり、それぞれの漢方薬に合う体質や症状は異なります。温経湯と当帰芍薬散のちがいを詳しくみていきましょう。水の巡りもよくする「当帰芍薬散」当帰芍薬散は水分代謝を高める生薬を含むため、むくみなどがみられる方により適しています。〜当帰芍薬散の配合生薬〜当帰(トウキ)、川芎(センキュウ)、芍薬(シャクヤク)…血を補う茯苓(ブクリョウ)、白朮(ビャクジュツ)、沢瀉(タクシャ)…水分代謝を高める当帰芍薬散は上記の6つの生薬が含まれています。温経湯には水分代謝を高める茯苓、白朮、沢瀉が含まれていません。一方、血を補う当帰、川芎、芍薬は温経湯にも含まれているため、どちらも貧血など血が不足している方向けといった似た部分があります。血の巡りをよくする「温経湯」温経湯には血行をよくする「牡丹皮」が含まれているため、当帰芍薬散よりも血の巡りが悪い方向きです。東洋医学では血の巡りが悪い状態を「瘀血(おけつ)」と呼び、肩こりや便秘、肌が黒ずんでかさかさする、といった症状がみられやすくなります。他にも麦門冬、人参、阿膠など体を潤す生薬も含むため、より乾燥体質に向いているのが温経湯の特徴です。妊活では温経湯と当帰芍薬散どっちがよいの?当帰芍薬散も温経湯も妊活に使われる漢方薬ですが、どちらが優れているという訳ではなく、体質や症状に合うものを選ぶかが大切です。生理不順で不妊がみられる場合でも当帰芍薬散の方が合う人もいれば、温経湯の方がより適している方もいます。また、他にも妊活に使われる漢方薬はあるため、必ずしもどちらかを使えばよいという訳でもありません。自分ではどんな体質かわからない方は医師や薬剤師などの専門家に相談してみましょう。温経湯の副作用や注意点は?漢方薬でも副作用や注意点はあります。 服用時に気になる症状がある場合は、自己判断で服用せずに医師や薬剤師などに相談しましょう。ここでは、温経湯の副作用や注意点を紹介します。主な副作用は消化器症状や皮膚症状温経湯の主な副作用は以下の通りです。胃の不快感、食欲がない、下痢、吐き気などの消化器症状かゆみ、蕁麻疹、湿疹などの皮膚症状また、でると病状が重くなる副作用がおこることもあります。下記の症状がでた場合は直ちに病院を受診してください。偽アルドステロン症、ミオパチー手足のだるさやしびれ、つっぱり感やこわばりに加えて脱力感、筋肉痛があらわれて徐々に強くなる妊娠中または妊娠の可能性のある人は服用NG温経湯は妊娠中や妊娠の可能性がある方は服用を控えた方がよい漢方薬です。温経湯に含まれている牡丹皮は血流をよくしますが、流産や早産の可能性があると考えられています。妊娠が判明した場合は自己判断で温経湯を服用するのは控えて、かかりつけ医に相談してくださいね。温経湯はまずい?やせる効果はあるの?温経湯についてよくある質問3選!「温経湯が飲めるか心配…」「ダイエットもしたいけど温経湯は太らない?」と、温経湯について気になることも多いと思います。最後に温経湯のよくある3つの質問を解説します。ぜひ参考にしてください。温経湯はまずい?どんな味がするの?温経湯は特異なにおいがあり、わずかに辛くて渋い味がします。味の感じ方は個人差がありますが、渋い味が口にあわないと感じる方もいるようです。飲みづらい場合はあらかじめ水を口に含んで服用したり、オブラートを利用することもできます。漢方は続けることが大切なので、服用しづらい場合は医師や薬剤師に相談してみましょう。効果が出るまではどれくらいかかる?効果が出るまでは個人差がありますが、服用しはじめて2〜4週間程度は体調の変化があるか様子をみましょう。風邪などの急性期で数時間で効果を発揮する漢方薬もあれば、慢性的な疾患で効果が出るまでに時間がかかるものもあります。妊活で漢方薬を服用する場合は、ある程度じっくり経過をみていくことが多いです。温経湯で太ることはある?ダイエット効果は?温経湯は残念ながらやせる効果は期待できません。また、体重増加などの副作用の可能性も低いと考えられています。太りすぎてても、痩せすぎてても妊娠しづらくなることもあるので、これから妊娠を考える方は体重管理も意識しましょう!まとめ体を温めて、血の巡りをよくする妊活女性の心強い味方の温経湯。この記事では温経湯の特徴や効果を解説しましたが、伝えたいポイントをまとめてみました。温経湯は生理不順を改善することから応用して不妊症にも使われる生理痛や更年期障害などの女性特有の病気や神経症や湿疹に効果がある疲れやすく、下半身が冷え、手足のほてりや唇が乾燥しやすい体質向き当帰芍薬散は水の巡りが悪い人、温経湯は血の巡りが悪い人に向いている主な副作用は消化器症状や皮膚症状妊活中で温経湯がどんな漢方薬が気になる方は本記事をぜひ参考にして、妊活に取り組んでみてくださいね。参考文献:1)ツムラ温経湯エキス顆粒(医療用)添付文書.株式会社ツムラ.2)漢方診療医典 第6版.矢数道明3)漢方治療エビデンスレポート.日本東洋医学会4)漢方の疑問点Q&A.日本東洋医学会