なぜ禁煙が必要なのか?喫煙が健康に害を及ぼすことは広く知られていますが、不妊にも大きな影響を与えることはご存知でしょうか?実は、たばこに含まれる有害物質は精巣や卵巣などの生殖機能にも悪影響を及ぼします。不妊に悩む方や妊活を考えている方にとって、喫煙習慣を見直すことは非常に重要です。この記事では、喫煙が生殖機能にどのように影響を与えるのかを詳しく解説します。「たばこをやめた方がいいとわかっているけど、なかなか一歩が踏み出せない」という方も、この機会に喫煙と不妊の関係について一緒に考えていきましょう。 喫煙が生殖機能に与える影響喫煙は、男女ともに生殖機能を低下させる原因になります。男性では精子の質が悪化し、女性では卵子の質や卵巣の健康が損なわれることがわかっています。それぞれの具体的な影響について見ていきましょう。男性への影響1. 精子の質が低下するたばこに含まれる有害物質が精巣に影響を及ぼすことで、精子の運動性が低下し、奇形精子の割合も増加します。また、精子のDNA損傷も引き起こされるため、受精能力が低下するだけでなく、受精後の胚の発育にも悪影響を与えることがあります。そのため受精できたとしても流産のリスクを高めてしまうのです。ある研究によると、喫煙男性は非喫煙男性と比較して、精液量、精子数、精子運動率の割合が低いことが分かっています。さらに、1日20本以上煙草を吸う男性は、非喫煙者と比較して精子濃度が約20%低いというデータも。喫煙をすることで精子の質が低下するため、受精率や妊娠率も低下してしまうのです。参考:Pereira, C.S., Juchniuk de Vozzi, M.S., dos Santos, S.A. et al. Smoking-induced chromosomal segregation anomalies identified by FISH analysis of sperm. Mol Cytogenet 7, 58 (2014)参考:Kovac JR, Khanna A, Lipshultz LI.”The effects of cigarette smoking on male fertility”. Postgrad Med. 2015 Apr;127(3):338-41.2. 勃起不全(ED)を引き起こすたばこに含まれるニコチンには血管を収縮させる作用があるので血流が悪くなり、EDを引き起こすことがあります。喫煙者は非喫煙者と比較してEDのリスクが51%、元喫煙者では20%増加するという研究もあります。喫煙は勃起障害の主要な原因の一つであり、性生活に深刻な影響を与えるのです。参考:Cao S, Yin X, Wang Y, Zhou H, Song F, Lu Z. Smoking and risk of erectile dysfunction: systematic review of observational studies with meta-analysis. PLoS One. 2013;8(4)女性への影響1.卵子の質が低下する喫煙による有害物質は卵巣にも影響を及ぼし、卵子の質を低下させます。そもそも卵子は、母親のお腹にいるときに作られるため、生まれてからは減る一方で新しく作られることはありません。喫煙はこの貴重な卵子に取り返しのつかないダメージを与えるのです。2.閉経を早める喫煙者は卵巣機能の低下により、閉経の年齢が早まってしまいます。実際に、喫煙や受動喫煙の経験がある女性は、非喫煙者と比べて閉経が1~2年早まるという報告もあります。閉経が早まることで、妊活や将来の健康にも影響を与えてしまうのです。参考:喫煙の健康影響に関する検討会.”喫煙と健康”厚生労働省.2016-8 不妊治療への影響不妊治療においても、喫煙は成功率を大幅に低下させる要因となります。妊娠率が下がるため治療自体が長期化し、費用も増加する傾向があります。治療成功率の低下喫煙が原因で、治療で移植された受精卵が着床しづらくなることがわかっています。海外の研究では、喫煙女性の体外受精の妊娠率は非喫煙者の半分以下というデータがあります。さらに、女性自身が喫煙者の場合と、パートナーの男性のみが喫煙者の場合では、妊娠率は変わらないという驚きの結果も。つまり、自身が喫煙者であることはもちろん、副流煙にさらされることも治療の成功率を低下させる原因になるのです。受胎待ち時間の長期化避妊をやめてから妊娠するまでの「受胎待ち時間」は、女性本人またはパートナーの男性の喫煙によって長くなることが確認されています。妊娠するまでの期間が長いと、夫婦の年齢が上がっていき妊娠率をさらに低下させる可能性があります。また、治療期間も長くなってしまい、治療費の増加につながることも。受胎待ち時間が長くなることは、時間的にも経済的にも大きな負担になってしまうのです。引用:e-ヘルスネット,”女性の喫煙・受動喫煙の状況と、妊娠出産などへの影響”厚生労働省.2021-12参考:Michael S. Neal, Edward G. Hughes, Alison C. Holloway, Warren G. Foster, Sidestream smoking is equally as damaging as mainstream smoking on IVF outcomes, Human Reproduction, Volume 20, Issue 9, 1 September 2005, Pages 2531–2535禁煙のメリット禁煙のメリットは、妊娠の可能性を高めるだけではありません。自身の健康状態が改善されるとともに、生まれてくる子どもの健康被害のリスクも減少します。1.全身の健康状態の改善禁煙を始めて20分後から身体的な効果が現れます。24時間後には心臓発作の可能性が少なくなり、数か月でせきや喘鳴が改善。5年後には肺がんのリスクが低下し、10~15年後にはさまざまな病気にかかるリスクが非喫煙者のレベルまで近づくことがわかっています。また、禁煙は生殖機能にも良い影響があります。喫煙男性が禁煙により、性欲やEDが改善されたというデータもあります。参考:e-ヘルスネット,”禁煙の効果”厚生労働省.2024-3参考:Mima, M., Huang, J.B., Andriole, G.L., Freedland, S.J., Ohlander, S.J. and Moreira, D.M. (2022), The impact of smoking on sexual function. BJU Int, 130: 186-192.2. ストレスの抑制喫煙を「ストレス解消法」として考える方もいるかもしれません。しかし、実はニコチン切れの離脱症状(イライラなど)を喫煙によって緩和しているに過ぎず、むしろストレスをつくる原因になっているのです。一方、禁煙する際には、離脱症状によるストレスが一時的に高まりますが、禁煙に成功した人ではストレスが軽減し精神的にも良い効果があることがわかっています。参考:e-ヘルスネット,”たばこのストレス”厚生労働省.2018-93. 子どもの健康被害のリスク低減禁煙をすることで、生まれてくる子どもの健康被害のリスクも減らせます。妊娠中の喫煙は低出生体重や早産の原因となります。さらに、妊婦本人が喫煙をしなくとも、受動喫煙によって乳幼児突然死症候群(SIDS)が発生することも。禁煙することでこれらのリスクを低減できるのです。禁煙への一歩とサポート禁煙は簡単ではありませんが、専門家からサポートを受けたり、たばこに代わるリフレッシュ方法を見つけたりすることで成功しやすくなります。禁煙外来の利用禁煙外来では、個々の状況に応じたカウンセリングや生活指導を提供してくれます。また、禁煙補助薬を使うことで禁断症状を軽減でき、成功率が高まります。禁煙外来を活用することは、自力で禁煙するよりも確実な方法です。別の方法で気分転換を図る気分転換をしたいタイミングで喫煙をする人は多いです。そのため禁煙を成功させるためには、日常生活の中で喫煙の代わりとなる方法で対処することが大切です。たとえば、ストレスを感じたときにガムを噛んだり水を飲んだりすること、運動や趣味に取り組むことが効果的です。まとめ喫煙は卵子や精子の質を低下させ、不妊のリスクを高めます。喫煙をやめたいと思っている方のなかには、未来の家族を望む気持ちと喫煙習慣との間で葛藤する方もいるでしょう。しかし、禁煙をすることで生殖機能の回復だけでなく、自身やパートナー、生まれてくる子どもの健康へのリスクも減らせます。不妊治療や妊活を考えている方は、禁煙を第一歩として取り組むことが重要です。適切なサポートを活用し、健康的な未来を目指しましょう。