婦人科3大漢方薬の一つである「桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)」。桂枝茯苓丸は生理不順や冷えといった血流の悪さが原因でおこる不調を改善する漢方薬ですが、実は妊活にもよく使われていることはご存じでしょうか?妊活におすすめな漢方薬に興味はあるけど、漢方薬は飲んだことがなく、効果や副作用が気になる方も多いでしょう。また、せっかく飲むなら自分に合った漢方薬を選びたいところですよね。この記事では、桂枝茯苓丸の妊活への効果や副作用やどんな人に向いているか、漢方薬剤師が解説します。妊活中の漢方薬が気になる方はぜひ参考にしてください。桂枝茯苓丸はどんな漢方薬?効果と構成生薬桂枝茯苓丸は、血流を良くする生薬を多く含み、生理不順や生理痛、冷え性、更年期障害など、主に女性の悩みに多い症状を改善する漢方薬です。なお、生薬とは動植物など自然由来の素材で薬効がある部位を加工して作られる漢方薬の原料です。漢方薬は2つ以上の生薬を組み合わせた医薬品で、一つの処方でさまざまな効果を発揮します。まず、桂枝茯苓丸に含まれる生薬と効果をみていきましょう。5種類の生薬から構成桂枝茯苓丸は以下の5つの生薬から構成されています。主に、血流を良くしたり、気持ちを落ち着かせる生薬を中心に配合されています。【5つの構成生薬と主な働き】茯苓(ブクリョウ)…鎮静、水分代謝を改善桂枝(ケイシ)…鎮静、鎮痛、血流改善芍薬(シャクヤク)…筋肉の緊張を緩める、血流改善牡丹皮(ボタンピ)…血流改善桃仁(トウニン) …血流改善生薬は単体でも効能がありますが、組み合わせの内容で効果が変わったり、強まる特徴があります。例えば、桂枝茯苓丸の名前にもある「茯苓」は鎮静作用以外に水分代謝を良くする生薬です。桂枝茯苓丸では茯苓と桂枝が合わさることで鎮静作用が強まり、イライラやのぼせなどの症状を改善します。一方、茯苓は不妊症の治療薬として有名な当帰芍薬散にも含まれており、他の水分代謝を良くする生薬と合わさることで、むくみを改善します。組み合わせた生薬の相性で効果が変わるのが、漢方薬の奥深さであり、面白さなのです。血流の悪さが原因で起こる不調を改善桂枝茯苓丸は、血流の悪さが原因で起こる以下の症状を改善します。【桂枝茯苓丸の代表的な効果】生理不順や生理痛更年期障害(頭痛、めまい、のぼせ、肩こりなど)冷え症打ち身(打撲傷)しもやけシミ漢方医学では全身に栄養を運んだり、精神を安定させる「血(けつ)」という概念があり、血の巡りが悪い状態を瘀血(おけつ)とよびます。瘀血になると生理不順や生理痛、冷え、更年期障害など女性に多い不調につながりやすいと考えられています。他にも、生理の量が多い、経血にレバー状の塊が混ざるといった症状も、瘀血の特徴です。また、桂枝茯苓丸は女性だけでなく、男性にも症状や体質が合えば使われることも珍しくありません。例えば、うっ血が原因でおこる痔や皮膚に十分な栄養が届かないことで生じるシミに使われます。脂っこい食べ物の摂りすぎや運動不足などの不摂生な生活は血液がドロドロになりやすく、瘀血の原因になります。最近では、生活習慣が乱れている人が増えているため、男女ともに注意が必要です。桂枝茯苓丸が妊活に使われるのはなぜ?妊娠しやすい体づくりのためには「血」の状態をよくすることが大切です。体内の血が不足したり、巡りが悪くなると、ホルモンを作る卵巣や赤ちゃんのベットになる子宮などの生殖器に十分な栄養が届かなくなり、その機能が低下する可能性があります。桂枝茯苓丸は、主に血の巡りを良くすることで、ホルモンバランスを整え、妊娠しやすい体づくりをサポートします。体外受精の採卵前に、卵子の成長を促す目的で使われた報告もあるようです。不妊治療では原因に応じた治療法が行われますが、漢方治療でも病院の検査結果を参考にして、不妊原因に応じた漢方薬が使われることもあります。次に桂枝茯苓丸がどのような不妊のケースに使われているか解説します。生理不順桂枝茯苓丸は生理不順を改善する効果があり、不妊治療に応用されることがあります。生理不順とは、正常な生理周期(25〜38日)から外れる状態です。生理の間隔が長い場合(39日以上)や短い場合(24日以内)は排卵がないことが多く、不妊のリスクが高くなります。漢方医学では昔から「子を求めるものは、まず生理の状態を整える」といわれており、生理周期を安定させることが重要と考えられています。桂枝茯苓丸は瘀血による生理周期の乱れを整えることで、妊娠しやすい体づくりをサポートします。子宮筋腫子宮筋腫があると受精卵が子宮内膜へ着床しづらくなったり、精子が卵子へ到達しづらくなることで、不妊原因になることがあります。子宮筋腫の治療方針は、大きさや種類によって異なり、一般的には手術やホルモン剤が用いられます。漢方治療では、子宮筋腫を血の塊、つまり瘀血の状態と捉えて、桂枝茯苓丸が使われることがあります。男性不妊精子の数が少ない場合や運動率が低いなど、精子を作る機能に異常があるときには、漢方治療が行われることがあります。不妊治療の実態調査によると、男性不妊で漢方治療を行っている施設の約4割が桂枝茯苓丸を使用している報告もあるようです。特に、桂枝茯苓丸は男性不妊の原因で多い精索静脈瘤に使われることがあります。精索静脈瘤とは、精巣やその上にある精索の静脈がうっ血してできたコブで、精子の質を低下させる原因となります。漢方治療では、精索静脈瘤を瘀血(おけつ)としてとらえ、桂枝茯苓丸の血流改善効果を期待して使用されます。桂枝茯苓丸が合う3つの体質同じ不妊症でも、体質に合った漢方薬でないと十分な効果は発揮されません。そのため、漢方薬は症状だけではなく、自分の体質に合うものを選ぶことが大切です。ここでは、桂枝茯苓丸が合う3つの体質を紹介するので、ぜひチェックしてみてください。①体格しっかりして、比較的体力がある体質(実証)桂枝茯苓丸は、女性でも体格がしっかりしていて、疲れを感じにくい方に向いています。漢方医学では体力や病気への抵抗力から診断する「虚・実(きょ・じつ)」の考え方があります。桂枝茯苓丸は体力や抵抗力がある「実」の体質に合う漢方薬です。②足は冷えて、のぼせやすい体質(赤ら顔)「下半身は冷えるのに、首から上が暑くなりやすい」状態は、冷えのぼせと呼ばれます。桂枝茯苓丸は、冷えのぼせがあり、特に顔が赤い方に適した漢方薬です。桂枝茯苓丸は血流を良くすることで足の冷えを改善し、上にのぼってしまった気を下ろす鎮静作用があるとされています。③下腹部を押すと痛みや違和感を感じる(瘀血)漢方診断の一つに腹診があります。腹診とは、患者さんの腹部を触診して、腹部の緊張状態や圧痛、抵抗感を確認し、体質を判断する方法です。桂枝茯苓丸が合う瘀血体質の方に腹診を行うと、下腹部の圧痛や違和感を感じやすいとされています。桂枝茯苓丸の副作用や服用に注意が必要な人「漢方薬を飲むのははじめてで、副作用が気になる…」といった方も多いと思います。漢方薬も自然由来のものとはいえ、医薬品のため、副作用が起こる可能性はあり注意が必要です。ここでは、桂枝茯苓丸の副作用や注意が必要な人を解説します。主な副作用と対処法桂枝茯苓丸の主な副作用は以下の通りです。・発疹、かゆみ、赤みなどの皮膚症状・肝機能の異常(肝機能数値の上昇)・食欲不振、胃腸の不快感、吐き気、下痢などの胃腸症状桂枝茯苓丸を服用し始めてから、上記の症状があらわれた場合、副作用の可能性も考えられます。基本的には、服用を中止することで症状は緩和されることが多いですが、症状ごとに適切な処置や対応が必要です。漢方薬を服用中は上記の症状や気になる症状がでた場合は、自己判断で服用を続けずに、医療機関へ受診しましょう。服用に注意が必要な人桂枝茯苓丸が体質的に合わない人もいます。以下の人は服用に注意が必要です。①著しく体力が低下している人桂枝茯苓丸は比較的体力がある体質の方に向いています。逆に、疲れやすくいわゆる虚弱体質の人には向きません。普段から、とても疲れやすい人は桂枝茯苓丸が合わず、副作用がでやすくなる可能性があります。②妊娠の可能性のある女性桂枝茯苓丸には血流をよくする「桃仁」や「牡丹皮」が含まれており、流産や早産を引き起こす可能性が考えられています。桂枝茯苓丸はその働きから、「催生湯」ともよばれ、分娩促進に使われていたこともあるようです。桂枝茯苓丸は妊娠前の体質改善に使われますが、妊娠の可能性がある場合は自己判断で継続せずに、必ず医師や薬剤師に相談しましょう。桂枝茯苓丸についてよくある質問3選「妊活では当帰芍薬散と桂枝茯苓丸だと、どっちがよい?」「効果はいつからでる?」と、桂枝茯苓丸について気になることも多いと思います。最後に桂枝茯苓丸のよくある3つの質問を解説するので、ぜひ参考にしてください。当帰芍薬散との違いは?妊活にはどっちがよい? 当帰芍薬散と桂枝茯苓丸はどちらも生理不順や冷えなど女性に多い不調を改善し、不妊症にも使われる共通点があります。しかし、どちらがより妊娠しやすくなるかについては明確にはわかっていません。以下のように向いている体質が異なるため、自分の体質に合う漢方薬を選ぶことが大切です。【当帰芍薬散が向いている体質】 ①虚証…疲れやすい、痩せ型、声が小さい ②血が不足している(血虚)…貧血、生理の量が少ない ③水分代謝が悪い(水滞)…むくみやすい【桂枝茯苓丸が向いている体質】 ①実証…比較的体力がある、がっしり体型、声が大きい ②血の巡りが悪い(瘀血)…生理の量が多い、レバー状の塊がでる、肩こりしやすい 例えば、当帰芍薬散は血が不足していることによる不妊症に、桂枝茯苓丸は血流の悪さからくる不妊に適しています。妊活に使われる漢方薬は他にもあるため、自分の体質に合う漢方薬を知りたい方は漢方相談の利用がおすすめです。効果はいつから現れる?効果が現れるまでの期間は個人差がありますが、一般的には服用開始から2〜4週間程度で体調の変化を感じる方が多いです。なお、妊活を目的としている場合は、体質改善のためにさらに長期間の服用が推奨されることもあります。服用をはじめたら、手足が冷えにくくなったり、生理周期が整ったりなどの変化が現れることもあるため、様子をみましょう。桂枝茯苓丸で飲み合わせの悪い薬は?桂枝茯苓丸と他の医薬品との飲み合わせで、基本的に使用してはいけない西洋薬はありません。ただし、桂枝茯苓丸は血流を改善するため、血液をサラサラにする西洋薬を飲んでいる場合、作用が強くなる可能性があります。また、他の漢方薬を併用する場合、重複する生薬があると過剰摂取のリスクがあるため、注意が必要です。漢方薬をすでに服用していたり、病院で処方された薬がある方は医師や薬剤師に相談することをお勧めします。まとめ本記事では妊活で使われる桂枝茯苓丸について解説しました。桂枝茯苓丸は、血行不良による生理不順や生理痛を改善し、妊娠しやすい体づくりをサポートする漢方薬です。ただ、漢方薬は自分で選ぶのが難しい場合がありますので、この記事を参考にしながら、必要に応じて薬剤師や医師に相談してみてくださいね。参考:1)ツムラ桂枝茯苓丸エキス顆粒(医療用)インタビューフォーム.株式会社ツムラ.2)不妊治療の実態に関する調査研究 最終報告書.子ども・子育て支援推進調査研究事業3)一般のみなさんへ生殖医療Q&A男性不妊.一般社団法人日本生殖医学会4)体外受精の段階に合わせ決まったパターンで漢方薬を投与した20症例.日本東洋医学雑誌