妊娠を望む方にとって、流産や死産を繰り返すことはとてもつらい経験です。「また流産してしまった…。私に何か原因があるの?」と自分を責めてしまう方もいるかもしれません。ただ、流産や死産は誰のせいでもないこと。どうか、ご自身を責めないであげてほしいと思います。不育症について、まだ分かっていないことも多いですが、検査を受けることで原因が分かることもあります。また、すべてのケースで治療が必要というわけではありません。この記事では、不育症の原因や治療法について、不妊カウンセラーが解説します。不育症について知りたい方は参考にしてくださいね。不育症とは?どのくらいの人がなるの?まず、「不育症」とはどのような状態を指すかについて説明します。不育症の定義不育症とは、妊娠はするものの、流産や死産を繰り返し、赤ちゃんを授かることが難しい状態を指します。日本では、2〜3回ほどの流産や死産を経験した場合、不育症として検査を勧められることが多いです。また、流産が2回続く場合を「反復流産」、3回以上続く場合を「習慣流産」と呼び、不育症に含まれるものと考えられています。流産の頻度妊娠の約15〜20%は流産に至るといわれています。ただし、流産を繰り返すケースはさらに限られており、以下のような頻度とされています。2回以上の流産を経験する方 … 約5%3回以上の流産を経験する方(習慣流産) … 約1%不育症や習慣流産の正確な頻度を推定するのは難しいですが、日本では2回以上の流産を経験した方が約3.1万人いるとされています。流産が起こる確率は偶然の要素もありますが、何度も繰り返す場合には、何かしらの要因が隠れている可能性も考えます。不育症の主な原因不育症の原因は、検査をしてもはっきりと分からないことが多いですが、いくつかの要因が関係していることがわかっています。次に、不育症に関係する主な要因についてご紹介します。※ここでいう「原因」とは、「この要因があると必ず流産してしまう」というものではなく、「この要因があると流産のリスクが高くなる可能性がある」という意味です。血栓ができやすい体質血液が固まりやすい体質の場合、流産のリスクが高まることがあります。血管内に血栓(血の塊)ができると、赤ちゃんに十分な栄養や酸素が届かなくなるためです。このような体質には、「抗リン脂質抗体症候群」や「プロテインS異常症」などの病気が関係していることもあります。子宮の形の異常生まれつき子宮の形に特徴がある場合、受精卵が着床しにくかったり、着床しても赤ちゃんが成長するためのスペースが十分でなかったりすることがあります。その結果、流産のリスクが高くなることも。例えば、双角子宮(子宮の内部が2つに分かれている)や中隔子宮(子宮の中央に仕切りがある)などが挙げられます。子宮の形の違いは超音波検査などで確認でき、必要に応じて手術が行われることもあります。染色体の異常夫婦のどちらか、または両方に染色体の転座(染色体の一部が入れ替わること)などの異常があると、受精卵がうまく育たず流産につながることがあります。また、年齢が高くなると受精卵が偶然染色体異常を持つ確率が高くなり、その影響で流産しやすくなる傾向があります。ホルモンの異常甲状腺ホルモンの異常や糖尿病がある場合、流産のリスクが高まることがあります。甲状腺ホルモン異常:数値が高くても、低くても、妊娠の継続に影響を及ぼすことがあるため、ホルモンを調整する薬が処方されます。糖尿病:血糖値が高い状態が続くと、妊娠に悪影響を及ぼすことがあります。血糖値を下げる薬の使用に加え、食事や運動などの生活習慣の改善も重要になります。不育症の検査不育症の治療は、原因によって異なります。まずは検査を受けて流産の可能性が高くなるリスク因子がないかを確認し、必要に応じて適切な治療を行います。スクリーニング検査(リスク因子を調べる検査)不育症の検査では、以下のような項目を調べます。問診(流産の回数や時期、妊娠・出産歴、周期、喫煙、肥満、アルコール、カフェイン摂取などの生活習慣)血液検査(血液の固まりやすさ、ホルモン数値などを調べる)超音波検査・子宮卵管造影(子宮の形に異常がないかを調べる)これらの検査結果をもとに、必要な治療を検討していきます。原因が特定できないことも多い検査を行っても、明確な原因が分からないこともあります。しかし、その場合でも治療をせずに自然に妊娠・出産できるケースも多くあります。不育症と診断された場合でも、最終的に80%以上の方が赤ちゃんを授かるとされています。流産の多くは偶発的なものであり、2回以上続く場合には、何らかのリスク因子が関与している可能性があるため、検査を受けることが勧められます。ただし、検査では特定できない要因が隠れていることもあり、その場合は経過をみながら治療を検討したり、必要に応じて着床前診断を考えることもあります。不育症の治療方法不育症の治療は、リスク因子に応じた治療や心のケアが行われます。血栓を防ぐ治療(抗血栓療法)血液が固まりやすい体質が関係している場合、血栓ができるのを防ぐために「ヘパリン」や「アスピリン」などの血液をサラサラにする薬を使用します。これにより、妊娠の継続をサポートすることが期待されます。子宮の形を整える手術子宮の形に異常があり、それが流産の原因となる可能性がある場合、内視鏡手術などで子宮の形を整えることがあります。例えば、中隔子宮(子宮の内腔に仕切りがある状態)などの形態異常は、手術によって改善できることがあります。着床前診断体外受精で得られた受精卵を移植前に染色体異常がないか調べる検査です。正常な染色体を持つ受精卵を選んで移植することで、1回あたりの流産率を下げられる可能性があります。「正常な受精卵が得られるまでに時間がかかる」、「保険適用外」というデメリットもありますが、流産率が下がることで精神的な負担を軽減できるメリットもあります。心のケア不育症は精神的な負担が非常に大きく、「次の妊娠が怖い」、「気持ちがふさぎ込んでしまう」と感じることも珍しくなく、自然な感情です。そのようなときは、カウンセリングやサポートグループを活用することも大切です。不安や悩みを一人で抱え込まず、信頼できる医師や専門家と相談しながら進めていきましょう。不育症の費用や助成金不育症の検査や治療の費用は、内容や医療機関によって異なりますが、多くの検査や治療は保険適用されます。また、一部の自治体では、不育症の検査や治療に対する助成金制度を設けていることがあります。お住まいの地域で利用できる制度がないか確認しましょう。不育症は一人で悩まずに専門家や病院へ相談を不育症は、妊娠はできるものの流産や死産を繰り返してしまう状態をいいます。不育症は検査を行っても原因不明なことが多いですが、適切なアプローチをとることで、妊娠の継続につながる可能性があります。繰り返す流産や死産は次の妊娠に不安を感じたり、前向きになれないことも自然なことです。ときには、無理に気持ちを切り替えようとせず、カウンセリングなど心のケアを受けることも大切です。一人で悩まず、病院での検査や専門家への相談を検討してみましょう。本記事が不育症に悩まれる方の参考になれば幸いです。参考1.メディカルレビュー社.データから考える 不妊症・不育症治療2)一般社団法人日本生殖医学会.(旧 不妊症Q&A) > Q17.不育症とはどういうものですか? 一般のみなさまへ 生殖医療Q&A(旧 不妊症Q&A)