不妊治療の進歩とともに、不妊の原因も明らかにできるようになり、原因に合った治療を行うことで妊娠できる人も多くなってきました。不妊の原因には、様々な要因があります。不妊は女性だけに原因があるのだと思われがちでしたが、男女ともに原因があることもわかってきました。この記事では、男性の不妊の原因には、どのようなものがあるのかを解説していきます。不妊症ってなに?妊娠を望む健康な男女が避妊をせずに性交渉をしている場合、妊娠が成立するカップルの割合は、3か月で約50%、6か月で約70%~80%、1年で約90%と言われています。ですが、避妊をせずに性交渉をしていても妊娠しないカップルもいます。日本産婦人科学会では、1年間避妊をせずに性交渉をしても妊娠しない状態を「不妊」と定義しています。不妊カップルは10組に1組と言われていますが、最近では妊娠を望む年齢が上昇していることもあり、不妊の割合はより高くなっていると言われています。不妊の原因の男女比WHOの調査結果では、不妊の原因の男女比は、男性24%、男女共に24%、女性41%、原因不明11%と、不妊の原因の約半分は男性側にも原因があります。不妊は女性だけの問題ではなく、カップルで解決しなければならない問題なのです。男性の加齢と不妊女性は年齢を重ねると妊孕力(にんようりょく:妊娠できる能力)が低下しやすいと言われていますが、実は男性も同様に、加齢とともに妊孕力は低下するといわれています。男性は加齢によって、精液量の減少・精子の数や運動率の低下・精子の形態異常が増加するため、精子の質が落ちると考えられています。男性不妊の原因男性不妊の原因は、大きく分けて3つあります。①射精される精液中の精子の質に問題がある②性交渉のときに勃起が出来ず挿入できない・勃起はするが射精がうまくできない③精子は作られているが、精子の通り道に問題があって精液中に精子が出ない厚生労働省の男性不妊調査の結果、最も多いのは①の「造精機能障害」で82.4%と、男性不妊の原因のほとんどを占めています。次いで、②の「性機能障害」13.5%、③の「精路通過障害」3.9%、その他の原因が0.2%となっています。射精のしくみ男性不妊の原因について解説する前に、射精のしくみについて解説します。陰嚢の中にある精巣には精細管があり、精子はそこでつくられます。脳の視床下部からゴナドトロピン放出ホルモンが分泌され、下垂体に黄体形成ホルモンと卵胞刺激ホルモンを分泌するように指令を出します。黄体形成ホルモンは精巣にテストステロンをつくるように命令し、卵胞刺激ホルモンはテストステロンとともに精子をつくるように促します。精巣でつくられた精子は精巣上体に蓄えられ、運動能力と受精能力を得ます。蓄えられた精子は、性的刺激によって脳から指令が出ると、精管へと移動し、精管膨大部へと運ばれていきます。その後、精嚢・前立腺からの分泌液と混ざって精液となり、尿道から射精します。造精機能障害精巣の中で精子をうまくつくることができない状態を、造精機能障害といいます。精子がうまくつくり出されないため、射精された精液の中には、精子の数が少ない・精子の運動率が低い・正常形態の精子が少ない状態となります。精液検査で、精液中の精子の濃度、動いている精子の割合、精子の形を顕微鏡で観察します。乏精子症:精液1ml中、精子数が1600万以下無精子症:精液中に精子が全くみつからない精子無力症:精液中に動いている精子の割合が42%未満奇形精子症:正常な形をした精子の割合が4%未満造精機能障害の原因造精機能障害の約半分は原因不明です。その中で原因がわかっているものは、約37%が精索静脈瘤、約1.2%がホルモンの低下によるものだといわれています。⚫︎精索静脈瘤男性不妊症の4割に認められる疾患です。精巣から心臓にもどる血管内の血液が逆流してしまい、精巣の周りに静脈のこぶができてしまう状態をいいます。精索静脈瘤になると、お腹から精巣の方へと逆流してきた温かい血液によって精巣の温度を上げてしまいます。精子は熱に弱いため、精巣が温められてしまうと、精子を作る機能が低下してしまいます。⚫︎ホルモンの低下精子をつくり出すために必要なホルモンが、なんらかの原因でうまく分泌されない場合もあります。⚫︎先天性のもの造精機能障害となる先天性の疾患に、クラインフェルター症候群があります。正常男性の性染色体はXYの2本ですが、クラインフェルター症候群ではXXYとX染色体が1本多くなっています。テストステロンの生産量が低下するため、乏精子症・無精子症となります。⚫︎抗がん剤治療後や放射線治療後悪性腫瘍(がん)、悪性リンパ腫、白血病などの病気にかかった場合、がん細胞を死滅させるために、抗がん剤治療や放射線治療を行うことがあります。がん細胞を死滅させるための治療は、精巣における造精子機能に障害を与えてしまう可能性が高いといわれています。⚫︎加齢によるもの35歳ごろから徐々に精子の質は低下していきます。⚫︎アルコール・喫煙・肥満が原因によるもの精子の状態は体調によって大きく左右されます。生活習慣による身体へのストレスは、造精機能の低下をきたします。造精機能障害の治療⚫︎漢方薬・ビタミン剤・抗酸化剤の内服⚫︎ホルモン自己注射⚫︎精巣内精子採取術(TESE)⚫︎精子の数と不妊治療の目安 ※個人差も大きく、病院によっても異なりますので参考程度のものです。総運動精子数不妊治療方法約1640万以上タイミング法900万以上〜1640万未満人工受精500万以上〜900万未満体外受精500万未満顕微授精性機能障害性機能障害には以下のような状態があります。①勃起がうまくできず膣内に陰茎を挿入できない状態(ED)②射精がうまくできない状態③精液が膀胱内に逆流し逆行性射精となり、膣内に精液を射精できない状態性機能障害は、心理的な要因が大きく関係しているとも考えられており、男性不妊症の原因として近年増加傾向にあります。性機能障害の原因⚫︎身体的・精神的なストレス⚫︎陰茎への血流が減少⚫︎糖尿病・高血圧・肥満などの生活習慣病⚫︎性交渉中の精神的な原因⚫︎不適切なマスターベーション性機能障害の治療⚫︎EDに対する治療カウンセリング、勃起障害治療薬の内服、他の原因となりうる生活習慣病の治療⚫︎膣内射精障害に対する治療カウンセリング、勃起障害治療薬の内服⚫︎逆行性射精障害に対する治療膀胱頸部を閉じる作用のある薬(プソイドエフェドリン、イミプラミンなど)を投与性機能障害に対する治療を行っても膣内での射精が難しい場合には、まずは人工授精が第一選択になります。精路通過障害精巣内でつくられた精子は、精巣上体→精管→射精菅→尿道という流れで体の外に出ます。この精子の通り道のどこかに閉塞がある場合、精路通過障害となります。精巣内では精子が作られているのにも関わらず、精液中に精子が出てこない閉塞性無精子症を引き起こします。精路通過障害の原因⚫︎先天両側精管欠損症⚫︎尿道炎⚫︎射精管閉塞症⚫︎前立腺嚢胞⚫︎鼠径ヘルニア⚫︎パイプカット後精路通過障害の治療⚫︎閉塞した精路の再建精路通過障害が治らない場合には、精巣内精子採取術(TESE)を行い、精巣から直接精子を採取し、女性も採卵して顕微授精を行います。副性器機能障害副性器とは、陰茎と精巣以外の臓器をいいます。精子を貯蔵する場所である「精巣上体」、精液の一部である前立腺液をつくる場所である「前立腺」、精液の一部である精嚢液をつくる場所である「精嚢」が副性器にあたります。この副性器が炎症を起こすと精子の運動率が低下したり、精子の形態が悪くなったりと、精子の質を低下させてしまいます。また、炎症によって臓器が硬くなったり、腫れることで、精子の通路が狭くなって精子の通過障害が起こることもあります。副性器機能障害の原因⚫︎感染による炎症後遺症が起きるものとして代表的なものは、流行性耳下腺炎(おたふくかぜ)です。精巣上体が炎症を起こしてしまい、硬くなることで精子の通過を妨げることがあります。⚫︎慢性前立腺炎副性器機能障害の治療⚫︎炎症に対して治療する精子の質を改善するためにできることって?精子の質は、そのときの体調によって大きく変わります。日常生活で意識して行動することで、精子の質の改善も十分に望むことができます。精子の質を改善するためにできることを紹介していきます。下半身を温めない下半身にある精巣は血流が豊富な臓器なので、温度の変化や圧迫、外傷にとても敏感です。精巣が最も活発に活動できる温度は、体温よりも2~3℃ほど低い、約32~34℃です。そのため陰嚢は、体内ではなく、体の外にぶら下がっています。精子は熱に弱いため、精巣が温められてしまうと、精子をつくる機能が低下してしまいます。精巣が高温な状態が続くと、乏精子症や精子無力症につながります。⚫︎身体を温めすぎるような長時間の入浴やサウナは避ける⚫︎ノートパソコンを膝の上に置かない⚫︎下着は風通しのいいトランクスにする禁煙する喫煙をすることで精巣の機能が低下し、精子の質を低下させたり、勃起不全(ED)になりやすいといわれています。⚫︎喫煙が引き起こす精子の質の低下精子の質は、精液中に精子がどれくらいいるかという「精子濃度」、精子の運動がどのくらい活動的かという「精子運動率」、頭部が欠如した円形の精子になるといった形態異常がどのくらい起きているかという「奇形精子率」によって決まります。喫煙者は精子濃度は15~25%減少、精子運動率は10~17%低下、奇形精子率は13%上昇します。これは、喫煙をすることで精液の中に含まれるようになる「ニコチン代謝産物」が精子の運動性を低下させることや、精細胞のDNAを障害することなどが原因だといわれています。⚫︎喫煙が引き起こす勃起不全勃起は、性的興奮によって脳から勃起をするよう指示を受け、陰茎の海綿体に血液が多く流れ込み、血液が充満していくことによって起こります。喫煙によってニコチンや一酸化炭素を摂取することで、動脈硬化や血管攣縮、血管を傷つけたりとペニスの主となる動脈に影響を及ぼし、勃起不全につながりやすいといわれています。太りすぎない肥満男性は、精子の数・濃度・運動性の低下、精子奇形が多いことがわかっています。精子はホルモンによってつくられているので、身体を整えることは大切です。圧迫しない圧迫によって下半身の血流が悪くなると、精巣への血流も悪くなってしまいます。長時間の座り姿勢は精子にとってあまりよくないとされています。デスクワークや、車の長時間の座り姿勢には、1時間に1回程度は立って血行を改善することが効果的です。定期的に運動する下半身の血流を良くするために継続的に運動することが大切です。運動をすることで肥満も改善することができます。ウォーキングや軽いジョギング、ヨガ、ストレッチなどがおすすめです。健康的な食生活を心がける食事は身体そのものをつくる大切な栄養源です。質の良い精子をつくるためには食事も意識すると効果的です。ナッツ、魚、鶏肉、果物、野菜の中に含まれている不飽和脂肪酸である「オメガ3脂肪酸」は、精子の形状に良い影響を与えるといわれています。葉酸や亜鉛は、精子の数を増やしてくれます。十分な睡眠を取る睡眠不足の男性は、十分な睡眠を取っている男性に比べてテストステロンの分泌が低下する傾向にあります。また、睡眠不足になることでホルモンバランスの乱れも生じ、精子の質に影響します。成人男性にとっては、1日7時間の睡眠が最適だと言われていますが、ご自身が「十分に休息が取ることができた」と思えることが大切です。禁欲しすぎない精巣の中に古い精子が残っていると、新しくできた精子も酸化(老化)させてしまい、運動率が悪くなるといわれています。禁欲期間は3〜4日にとどめることがおすすめです。まとめ今回は、男性の不妊の原因にはどんなものがあるのかを解説しました。男性も女性と同様に加齢とともに精子の質が低下し、不妊の原因となりやすくなりますが、他に原因があることも多いです。妊娠を望む方は、早めに受診して原因を明らかにして対処していくことも大切です。また、精子の質は日常生活の影響も受けやすいので、精子の質を上げる生活を心がけていきましょう。【ライタープロフィール】助産師 四辻有希子大学院を卒業後、助産師として地域周産期母子医療センターの産科病棟勤務。不妊治療から妊婦健診、出産、産後まで幅広く周産期の助産ケアに関わっている。〈資格〉・助産師、保健師、看護師・ICLS認定インストラクター・新生児蘇生法「専門」コース修了・J-CIMELSインストラクター