不妊治療の進歩とともに、不妊の原因も明らかにできるようになり、原因に合った治療を行うことで妊娠できる人も多くなってきました。不妊の原因には、様々な要因があります。不妊は女性だけに原因があるのだと思われがちでしたが、男女ともに原因があることもわかってきました。この記事では、女性の不妊の原因には、どのようなものがあるのかを解説していきます。不妊症ってなに?妊娠を望む健康な男女が避妊をせずに性交渉をしている場合、妊娠が成立するカップルの割合は、3か月で約50%、6か月で約70%~80%、1年で約90%と言われています。ですが、避妊をせずに性交渉をしていても妊娠しないカップルもいます。日本産婦人科学会では、1年間避妊をせずに性交渉をしても妊娠しない状態を「不妊」と定義しています。不妊カップルは10組に1組と言われていますが、最近では妊娠を望む年齢が上昇していることもあり、不妊の割合はより高くなっていると言われています。女性の加齢と不妊女性の加齢と不妊は密接に関係しています。女性の卵子はお母さんのお腹の中にいるときに、一生分の卵子が卵巣内にできあがります。そしてその先、新しく作られることはありません。自分の年齢が卵子の年齢となるため、加齢によって卵子の質は低下していきます。胎児のときに一生分作られた卵子は、ピーク時700万個から生まれてすぐの赤ちゃんだと約200万個、思春期の入り始めには約180万個、20代の出産適齢期には約30万個、35歳頃には2〜3万個になります。不妊率女性の不妊は加齢と密接に関係しているため、不妊率も年齢とともに上昇していきます。不妊の割合は、20歳代前半までは5%以下ですが、20歳代後半では9%前後の不妊率になり、30歳代前半で15%、30歳代後半で30%、40歳以降では約64%が不妊となります。不妊の原因不妊の原因は様々で、男女ともに原因があります。妊娠するためには卵巣で卵子のもととなる卵胞を成熟させます。成熟した卵胞は卵巣から飛び出し排卵することで、卵管に到達します。その間、精子は膣から子宮頸管、子宮を通り卵管に向けて進んできます。そして卵管の大きな場所である卵管膨大部で精子と出会い、受精します。卵子と精子が受精した受精卵は卵管を通って子宮に入り、子宮内膜に着床することで妊娠が成立します。女性不妊の原因はこの過程のどこかに障害があるときに起きます。女性不妊の原因の割合としては、卵巣因子(排卵因子)が21%、卵管因子が20%、子宮因子が18%、免疫因子が5%となっています。卵巣因子(排卵因子)卵巣(排卵)が不妊の原因となる場合には、状態は大きく分けて以下の2つです。①卵巣の中で卵胞が成熟しないため、受精可能な卵子が育たない②受精可能な卵子は育つが、卵巣から卵子が飛び出さない(排卵が起きない)排卵が起きるしくみ正常に排卵が起きている場合、体の中ではどのような変化が起きているのでしょうか。ここでは排卵のしくみについて解説します。①卵巣の中で卵胞が成長月経が終わると、脳の視床下部からはゴナドトロピン放出ホルモンが出ます。このゴナドトロピン放出ホルモンが、脳の下垂体に向かって卵胞刺激ホルモンと黄体形成ホルモンを分泌するように命令します。卵胞刺激ホルモンの命令を受けて、卵巣では卵胞を成長させていきます。成長していく卵胞からはエストロゲン(卵胞ホルモン)を分泌します。このエストロゲンは、子宮内膜を厚くすることで受精卵を着床できるように準備していきます。②排卵するエストロゲンがたくさん分泌されると、下垂体から黄体形成ホルモンが急激に分泌されます。黄体形成ホルモンが急激に体の中で増えると、その24時間〜36時間後に卵胞が破れ、卵子が卵巣から飛び出します。これを排卵といいます。③妊娠の成立もしくは月経がくる排卵したあとに受精卵ができた場合には、卵管を通って子宮内に入り、ふかふかに厚くなった子宮内膜にくっつきます。これを着床といいます。着床した場合には妊娠成立となり、プロゲステロン(黄体ホルモン)によって子宮内膜が剥がれないように安定させて妊娠を維持します。妊娠が成立しなかった場合には、プロゲステロンの分泌が減少し、いらなくなった子宮内膜を剥がれ落とし月経がきます。排卵が起きるしくみは、このように色々な場所から分泌されるホルモンが関係しています。そのため、ホルモンの調整がうまくいかないと卵胞が育たなかったり、排卵が起きなかったりします。排卵異常の原因となる状態排卵異常の原因となる状態や疾患の例です。⚫︎痩せ、肥満痩せ状態や肥満状態は、体の中でホルモンの分泌が乱れやすくなります。排卵は色々なホルモンによってコントロールされているため、ホルモンが安定しないと排卵しにくくなります。⚫︎多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)通常、卵巣では月経の1周期で排卵に向けて数十個の卵胞が育ちますが、他の卵胞は途中で成長が止まり、十分に成長して排卵されるのは1個です。多嚢胞性卵巣症候群では、卵胞刺激ホルモンや黄体形成ホルモンの分泌異常、男性ホルモン過多のために、卵胞の成長が途中で止まり、小さい卵胞が卵巣内にとどまってしまいます。⚫︎高プロラクチン血症本来、プロラクチンは脳の下垂体から分泌され、産後に母乳を出させるホルモンです。プロラクチンは黄体形成ホルモンの上昇を抑えてしまうため、プロラクチンが高いと排卵ができなくなってしまいます。⚫︎甲状腺疾患甲状腺で作られている甲状腺ホルモンは、体の中のさまざまな臓器がスムーズに働くように作用しています。甲状腺ホルモンは卵胞の成長にも必要なホルモンなので、甲状腺疾患があると卵胞が成長しにくくなります。⚫︎黄体化未破裂卵胞成熟した卵胞から卵子がうまく飛び出せないことをいいます。この黄体化未破裂卵胞は、原因不明な点も多いのですが、ホルモンの乱れや子宮内膜症などによる卵巣周辺の癒着、クラミジア感染症、鎮痛剤内服の影響などが考えられています。⚫︎抗ミュラー管ホルモン(AMH)が低値AMHは卵巣内で発育している卵胞から分泌されるホルモンです。血液中のAMHの濃度を測ることで、発育過程の卵胞の数を推測することができます。AMHの数値が低ければ、残されている卵子が少ないことを推測できます。高すぎる場合には、排卵障害や多嚢胞性卵巣症候群の可能性があります。排卵異常の治療方法排卵異常が起きている場合には、どこに原因があるかを明らかにした上で、その原因に合った治療を選択していきます。⚫︎ダイエット(体重調整)⚫︎排卵誘発剤の内服⚫︎脳下垂体ホルモン製剤の注射⚫︎視床下部ホルモンの注射⚫︎多嚢胞卵巣症候群の治療⚫︎卵巣性無排卵の治療⚫︎高プロラクチン(PRL)血症の治療⚫︎甲状腺機能異常の治療治療によっても排卵が難しい場合には、採卵といって直接卵巣に針を指して成熟した卵胞から卵子を取り出し、体外受精か顕微授精を行い、受精卵を子宮内に戻す胚移植を行います。卵管因子卵管は卵巣から飛び出す卵子をキャッチし、精子と卵子が出会って受精し、子宮まで受精卵を運ぶパイプの役割をしています。卵管の一部が狭くなっていたり、つまっていると、うまく卵子や受精卵を運ぶことができず、不妊症や子宮外妊娠につながります。卵管異常の原因となる状態⚫︎卵管炎膣から子宮内に入った細菌などが、卵管の中やその周りに広がって炎症を起こすことで、卵管は閉塞したり、卵子を運ぶための機能が衰えたりします。この卵管炎の原因として最も多いのは、性感染症である「クラミジア感染症」です。⚫︎子宮内膜症子宮内膜は本来であれば、子宮の内壁に増殖し、受精卵が着床しやすいようにベッドの役割をするものです。しかし、子宮内膜症では、子宮内膜と同じような組織が卵巣やその周辺、子宮の外側の筋肉など子宮の内壁以外の場所にできてしまいます。卵巣にできた子宮内膜症は血が溜まっていき、その血液が古くなると「卵巣チョコレート嚢胞」と呼ばれます。排卵を妨げたり、卵管が排卵された卵子をキャッチするのを妨げます。⚫︎子宮筋腫子宮筋腫とは、子宮の筋肉の中にできる良性腫瘍です。子宮筋腫のできる場所や大きさによっては、卵管を狭くさせたり、閉塞させたりします。卵管異常の治療方法卵管異常がある場合には、その原因によって治療法を選択していきます。⚫︎卵管炎の治療⚫︎子宮内膜症の治療⚫︎卵巣チョコレート嚢胞の治療⚫︎卵管形成術による治療卵巣と同様、卵管は2つあるので一方に閉塞があったとしても、もう一方に異常がなければ自然妊娠や人工受精を望めます。ただ、どちらの卵巣から排卵するのかはそのときによって変わるため、確率は低くなりやすいです。両方の卵管に異常がある場合には、採卵をして体外受精や顕微授精を行い、受精卵を子宮内に戻す胚移植を行います。子宮因子子宮は子宮内膜に着床した受精卵を育て、胎児を育てる場所です。子宮に異常があると、受精卵の着床ができにくくなったり、流産しやすくなったり、受精卵・胎児が順調に発育できなくなったりします。子宮異常の原因となる状態⚫︎子宮筋腫子宮筋腫は子宮の筋肉にできる良性腫瘍です。子宮筋腫はエストロゲンの影響を受けて成長する腫瘍で、40歳前後の女性の約30%に見られる頻度の高いものです。子宮筋腫は腫瘍ができる場所によって、不妊の原因やその後の発育に影響します。①粘膜下子宮筋腫子宮の中にできるので子宮内膜が安定しにくくなり、受精卵の着床を妨げ、不妊の原因になります。②筋層内子宮筋腫子宮内の形を変形させる位置や大きさのものは、子宮内膜が安定しにくくなるので受精卵の着床を妨げ、不妊の原因になります。卵管に近い場所にできた場合にも、卵管因子による不妊の原因につながります。③漿膜下子宮筋腫不妊の原因にはなりにくいですが、あまりにも大きいものは卵巣や卵管に影響して不妊症となることもあります。⚫︎子宮腺筋症子宮腺筋症は前述した子宮内膜症の一種です。子宮の内壁ではない筋肉の部分に子宮内膜症ができると、子宮が硬く腫れていき、これを子宮腺筋症といいます。子宮の筋肉が硬くなると、受精卵の着床を妨げてしまい、不妊の原因になります。⚫︎子宮内腔の癒着人工妊娠中絶などで子宮の中を掻き出す処置を受けたり、炎症が起きることで子宮の中に癒着が起きることがあります。癒着が起きると、受精卵が着床する子宮内腔がなくなるため、着床できなくなります。⚫︎子宮形態異常双角子宮、単角子宮、重複子宮など子宮の形に異常がある場合には、流産を繰り返す不育症のリスクが高まるといわれています。⚫︎黄体機能不全排卵したあとの卵胞を「黄体」といいます。黄体からはプロゲステロンが分泌されて子宮内膜が剥がれないようにしますが、体のなんらかの異常でうまく子宮内膜を維持できないことを「黄体機能不全」といいます。受精卵が着床しにくく、流産しやすい状態となります。子宮異常の治療方法子宮異常がある場合には、その原因によって治療法を選択していきます。⚫︎子宮筋腫の治療⚫︎子宮腺筋症の治療⚫︎子宮形態異常の治療⚫︎子宮内腔の癒着の治療ホルモンを補充する治療や手術による治療があります。卵巣因子や卵管因子がない場合には、子宮異常を治療することで自然妊娠を望むことができます。頸管因子子宮頸管とは、膣の奥と子宮を繋ぐ筒状の道です。子宮頸管の内側は、頸管粘液で満たされていて、普段は細菌の侵入を防いでいます。頚管粘液は、排卵が近くなるとエストロゲンの作用で、精子が通過しやすいように変化します。この頚管粘液が分泌されにくくなると、精子の通過性が弱まり不妊の原因になります。頸管異常の原因となる状態⚫︎子宮頸部円錐切除術後子宮頸部円錐切除術とは、子宮頸がんの治療のために子宮頸部の一部を切除する手術のことです。術後の影響として頚管粘液不全となることがあります。⚫︎クロミッドの長期服用後排卵誘発剤であるクロミッドを長期間使用すると、副作用で頸管粘液不全となることがあります。頸管異常の治療法⚫︎排卵前にホルモン補充をして女性ホルモンの分泌を促し、頚管粘液の分泌を促す⚫︎クロミッドの休薬頸管異常が治らない場合には、人工授精の適応となります。状況によって、ステップアップが必要です。免疫因子通常、女性の体の中には精子に対する抗体はつくられません。しかし、精子を敵だと判断してしまい、抗精子抗体ができることもあります。精子に対する抗体があると、抗体は精子にくっついて精子の動きを止めてしまいます。精子が動けなくなることで、卵子のもとまで辿り着くことはできなくなり、不妊の原因となります。免疫異常の治療法抗精子抗体がある場合には、自然妊娠は難しいです。抗体量が少なければ、人工授精で妊娠ができる可能性もあります。しかし、抗体の量が多い場合には、体外受精の適応となります。ステロイドホルモンを投与することで、抗精子抗体を減少させる治療をすることもあります。まとめ今回は、女性の不妊の原因にはどんなものがあるのかを解説しました。女性は加齢によって妊娠率が低下したり、流産率が上昇しますが、加齢だけでなく、他に不妊の原因がある場合も多いです。妊娠を望んでいるものの、なかなか妊娠に至らないカップルは、早めに受診して不妊の原因を明らかにして、適切な対処をすることも大切です。【ライタープロフィール】助産師 四辻有希子大学院を卒業後、助産師として地域周産期母子医療センターの産科病棟勤務。不妊治療から妊婦健診、出産、産後まで幅広く周産期の助産ケアに関わっている。〈資格〉・助産師、保健師、看護師・ICLS認定インストラクター・新生児蘇生法「専門」コース修了・J-CIMELSインストラクター